2000年問題 (Y2Kコンピューターバグ)

第1部: 2000年問題は台風と同じ


【2000年問題は誰にも予測不能】

日本では、コンピューターの2000年問題はあまり問題にされていないようであるが、情報公開が進んでいる国柄からか、カナダ、アメリカでは毎日のように2000年問題のニュースが取り上げられている。

2000年問題がどれだけの影響を及ぼすかは、専門家によっても多きく予測が分かれ、現代文明の終焉の可能性を指摘する人から、単なる一時的な不便を被るだけ、と問題視しない人まで千差万別である。

このように予測が大きく分かれるのは、2000年問題が技術、心理、社会の複合問題であるからであるが、原因と結果の因果関係がはっきりとしているように思える技術問題だけを取ってみても、専門家の意見は大きく分かれる。対内、対外に相互依存の複雑なネットワークを構成しているコンピューターシステム網では、一個所の問題が他にどのような影響を与えるかは実際に起きてみないとわからないのが実状だ。

【2000年問題は台風と同じ】

2000年問題は台風のようだという専門家がいる。我々は遠くでの台風の発生を知り、どちらの方向に向かっているか、いつ上陸するかとかの予測は出来る。しかし実際には、台風はそれて何ら被害をもたらさないこともあるし、直撃して再興に何年もかかるような大損害を与えることもある。実際に来てみないと分からない、というのが台風だが、2000年問題もそれと良く似ている。

【基盤産業と政府は大丈夫といっているが】

最近発表された政府や電力会社、電話会社それに金融機関などの2000年問題対策のレポートは極めて楽観的な見通しを述べている。それによると我々市民はなんら特別な不自由を被ることなく、日常生活を継続して行けるだろうとのことだ。ただ、カナダでもアメリカでも、お目付け役の会計監査官(Auditor General)は、政府の対策の進行の遅さに警告を発している。

【技術的な問題1 − プログラムを全部修正するのは不可能】

技術的な問題はコンピューターのプログラムとデータの問題と、各種機器に埋め込まれたコンピューターチップ(embedded system)の問題とに大別できる。この他、ハードウェアの問題、特にパーソナルコンピューターの問題があるが、これは最も目に付きやすく、対策も立て易いので、ここでは割愛する。

コンピュータープログラムの問題としては、主として大企業や官公庁で使われているプログラムの15%ほどが2000年問題のバグを抱えていると推定され、アメリカの場合、このバグを全部修正するには3百万人のプログラマーが必要とされているが、現在2百万人のプログラマーしかアメリカにはいないので、全部を修正することは不可能である。

【主要システムはOK、しかし、、】

従ってプログラムの修正は、不可欠と見なされる主要システム(mission critical systems)に集中して行われるが、2000年の対策は大丈夫、という場合、この主要システムの対応の目処はついた、という場合がほとんどである。しかし、現在使われている複雑に絡み合ったシステムでは、実際にテストしてみたら、不可欠でないと見なされたプログラムが、誤動作してシステム全体に影響を与えた例がいくつも報告されている。

例えば、ある工場で、従業員の出退社をチェックするシステムは不可欠とはみなされなかったが、実際にテストしてみると誤動作を起こし、セキュリティーシステムが、外部からの侵入と判断して工場の運転停止プロセスを開始したそうだ。テストに立ち会っていた技術者が慌てて、コントロールルームから運転停止を解除する処置を取ろうとしたところ、高度な判断力を持つこのセキュリティーシステムは、セキュリティーシステムが攻撃されたと判断し、さらに強力な自衛の処置を取った事件があったという。

このような、「風が吹けば桶屋が儲かる」的な問題の伝播と拡大は、実際に2000年になるまでは、予測が極めて難しいのである。

【バグがバグを産む】

仮に15%の割合で存在すると推定されるプログラムのバグが全て対策を施されたとしても、修正したことによって新たなバグがプログラムに導入されることは避けようがなく、この割合は経験上7%と見なされている。したがって、すべてのプログラムが修正されたとしても、全体として1%のプログラムにはバグが残ることになる。実際には全てを修正するのは不可能なので、少なくとも数%のプログラムにバグが残ることになろう。これらのバグがどれだけの損害を生じるかは予測がつかない。

【技術的な問題2 − 埋め込まれたチップは番狂わせ】

コンピューターシステムは、人間に理解できる時間に変換するかどうかは別として、全て内蔵のクロックにより同期を取っている。従って思いがけないところにも「時計」は内蔵されている。例えば、車に搭載されていて、燃料の噴射をコントロールしているコンピューターにも時計はついているのだ。想像しにくいことではあるが、2000年になると、かなりの数の車が動かなくなると予測している専門家もいるのだ。

自動車会社など、チップの使用者は、チップメーカーから汎用チップを購入し、一部の機能だけを使い、あるコントロースシステムを作ることが多い、したがって、チップが2000年になると誤動作を起こすかどうかは確信が持てない。一方チップメーカーは使用者がどのようにチップを使うかは知らない。したがって、彼らも彼らのチップを使ったコントロールシステムが誤動作を起こすかは確言できない。

埋め込まれたコンピューターチップが問題を起こした例として、ある化学工場でテストをしたら、冷却水のコントロールシステムが異常を起こした例があり、もし、対策がされないまま2000年を迎えたとしたら、爆発事故の危険性があったとされている。イギリスの北海油田には海底に数千個の機器が沈めてあり、それを1個づつ引き上げてテストし、対処するには莫大な時間と費用がかかり、とても2000年までには間に合わないそうだ。

全世界には総計500億個のコンピューターチップがあり、そのうちの5%ほど(10〜20%という意見もある)のチップは、2000年問題を抱えているとされる。これらのチップはコントロールを必要とされるあらゆる場所に使われているので、これらが異常を起こした場合、エネルギー供給網や通信網など、我々の近代文明を支えている基盤が大きく揺らぐ可能性は否定できない。

【サウスアフリカの場合】

サウスアフリカは2000年問題の対策において世界で5指に入る準備が出来ていて、ドイツや日本より先行していると言われている。それにもかかわらず、病院の機械の誤動作によっての死者は300人、経済に被る影響は国民総生産の10%にあたる48億米ドルにも上る可能性があると同国の2000年問題決定支援センター(Year 2000 Decison Support Centre)は発表した。

【2000年問題はもう始まっている】

今年早々のニュースによると、今年の1月1日の正午にシンガポールの300台のタクシーのメーターが2000年問題によって2時間停止したそうであるが、これらのメーターは2000年問題対策済みの新しいものであったそうだ。スウェーデンのタクシーも1月1日に誤作動を起こしたそうであるが、スウェーデンの場合、料金が低く出たので乗客は苦情を言わなかったそうである。この他報道された2000年問題では、昨年の12月31日に香港の海上交通管制システムがクラッシュしたり、スウェーデンの空港の警察の仮パスポート発行システムが誤作動した例がある。またミネソタの105歳になるお婆さんに、幼稚園の入園の案内が送られたり、アムウェイで新しい薬品が期限切れと誤認識されたケースも報告されている。

1月25日のニュースによると、アメリカの情報技術アソシエーション(Information Technology Association of America)の調査では、400人の回答者のうち3分の1以上が、何らかの2000年問題を既に経験している。そして経験者のうち71%は、実際にテストしたところ、2000年対策が終了したプログラムでも問題があった、と回答している。ただ今までのところ、実害は小さく、どのソフトウェアプロジェクトにもあるような、ありふれたバグばかりだ、というのが専門家の感想だ。

87%の回答者は2000年問題は国家全体、地球全体の危機として認識しており、52%は彼らの会社は損害を被ると予測しているが、ほとんどは危機管理計画の用意が出来ていない。危機管理計画が出来ているのは3%だけであり、39%は半分以上、53%は半分未満計画が出来ているが、5%はまだ取り掛かってもいない。

【引き金になる日付】

専門家によると問題の引き金になる日は2000年1月1日だけでなく他にも何日かある。例えば1999年7月1日、この日からアメリカの大多数の州が会計年度2000年になる。そして10月1日には残りのほとんどの州が2000年になる。また1999年9月9日、この日は9999(ファイルの終わり、または日付不明)と解釈される可能性があるし、閏年の2000年は2月は29日まである。官公庁や企業で使われるプログラムの85%には日付が絡んでいるとされるが、対策がされていないプログラムではこれらの転換日に誤動作を起こす可能性がある。

【一般の人々は楽観的】

専門家が2000年問題を深刻に認識しているのと対照に、一般の人々は楽観的である。80%ほどの人が、それは政府や銀行の問題だから、2000年までに政府や企業が対策を施してくれるだろうと軽く考えている。これは政府や各産業が楽観的な見通しを公表しているからでもあるが、2000年問題の専門家は、この市民の無関心さを憂慮している。

2000年が近づくにつれ、問題が頻発するようになって、年金の支給などで実害が生じると、問題を楽観視して、注意を払わず、準備も進めていなかった人々が、一転して不安に駆られる恐れがある。今年の心理学学会には、2000年問題によって生じる社会不安で、5人に1人の割合でカウンセリングが必要になるだろうとのレポートも提出された。

【心理・社会的な影響】

欧米ではクリスチャンが圧倒的なので、彼らの意識にあるキリストの再来と最後の審判の心理的な影響も見逃せない。今後頻発するであろう2000年問題のニュースを何度も何度も耳にしていると、最後の審判が彼らの意識の上部に浮上してきて、彼らの行動にも影響を与える可能性がある。これはクリスチャンでなくとも、ノストロダムスの予言に代表される世紀末の破滅については多くの人が耳にしたことがあるので、やはり社会、経済に影響を与える何らかの行動の変化を引き起こす可能性はある。(私がこのニューズレターを書いていることへの倫理的検討は後程したい。)

ごく少数の人が山の中にこもるような現象は起きるだろうが、メディアをにぎわす以外、社会、経済に与える影響は大きくない。問題は大多数の人が取る微妙な行動の変化の総和が経済に及ぼす影響である。具体的には、食糧などの備蓄、現金や貴金属の確保、他の消費や投資の抑制などが考えられる。

【経済に与える影響】

例えば金融機関の機能停止に備え、各家庭が1ヶ月分ほどの生活費を引き出して、「たんす預金」をしたら、それはいったい経済にどのような影響を及ぼすであろうか。北米の人は貯蓄率が低いので、クレジットカードから前借りするケースが多いだろうが、いずれにせよ、国全体として巨額の引き出された現金が投資にも消費にも回らず、たんすで眠ることになった場合、資金の流動性にどのような影響を与えるだろうか。もちろんカナダ、アメリカはその危険性に付いては考慮済みで、アメリカの連邦銀行(Federal Reserve)の場合、500億ドルの新札を注文済みであるが、それで問題は回避できるのだろうか。

カナダの主要銀行(Canadian Imperial Bank Of Commerce)は、企業と個人が2000年問題に対処するために引き起こされる需要によって、1999年には経済は0.3%、金額にして15億ドル余計に拡大するだろうとの予測を昨年の12月に発表した。そして、その反動として2000年には経済は0.2%、12億ドル余計に縮小する見込みだそうだ。

埋め込まれたチップが予想以上に問題を引き起こした場合、使い物にならなくなった物の買い替え需要が増すと同時に、信頼感を喪失した消費者の買い控えも予想される。今の弱体化した世界経済にはこれらの微妙な行動はどのような影響を与えるのだろうか。

【最悪のケース】

今考えられる最悪のケースは、電気、ガス、水道、電話、金融機関など現代文明を支える根幹サービスが長期間に渡って停止することだ。なかでも電気はこれらのサービスの要で、電気なしには他のサービスの長期間の提供はできない。政府、電力業界ともこの点は承知していて、対策に最も力を入れているところだ。そして、2000年の1月1日に停電するようなことはないと、公言している。またサスカッチワンの電力会社(SaskPower)のように、今年の12月と来年の1月は従業員の休暇を禁止して、万全の態勢を取るところも出てきている。

しかし、この分野でアメリカより先行しているとされるカナダでも、万一問題が生じたとき、安全に設備を停止する計画を準備できている電力会社は3分の2に過ぎない。従って、カナダ北東部で昨年起きたアイスストームの被害で最長数ヶ月停電が続いたようなことはまだ起き得るのだ。

昨年の9月29日にバンクオブモントリオールは、クリスマス商戦に備え、クレジットカード決済、バンクマシーン機能などをつかさどるオンライン決済システム、コネックスのアップデートを行った。数ヶ月前から準備に万全を期し、テストにテストを重ねたにも関わらず、アップデートの結果予期しないバグにより、カナダ全国で機能が3時間停止した。あれだけの準備を重ねてもこのような結果になるのなら、2000年になったら一体どうなるのかと、時期が時期だけに、銀行関係者とコンピュータ専門家に冷水を浴びせた事件であった。

コロラド州では、銀行、信託会社、それに証券会社が、顧客に被害が生じても2000年問題などが原因であれば、免責になる、という法律を上程したと今年報道された。金融機関は自信はあるけれど、保証は出来ないということだ。

【軍隊と警察の危機管理計画】

万一に備えカナダの軍部では、「アバカス計画」(Operation Abacus)と呼ばれる危機管理計画を準備中である。それは主として軍が持っている設備と人員を必要なところに配置する最適なプランを作っておくことであり、軍艦を港につけて緊急発電所として機能させることや、通信隊が緊急の連絡網を構築したり、兵士が警官をバックアップすることなどの準備である。

カナダの連邦政府の緊急準備カナダ(Emergency Preparedness Canada)の2000年問題対策グループは、電力の供給が長期間停止した時などに大衆が暴徒化する場合を想定して、かっての戦時処置法(War Measures Act)に替わる緊急法(Emergency Act)を公布できる法的準備を具申し、今年3月末までの準備完了を目指している。

昨年12月16日のバンクーバーサン(The Vancouver Sun)の報道によれば、連邦警察(RCMP、Royal Canadian Mounted Police)は万一に備え、1ヶ月分ほどの食料や水、現金の用意をしておくことを市民に奨励している。また今年になってからのニュースでは、RCMPは今年の12月27日から、来年3月15日までの警察官とサポートスタッフ全員の休暇を取り消した。RCMPは2000年問題の対策費として5000万ドルを計上している。

このように、万一の最悪の事態に備え、官公庁や大企業では着々と準備が進められているが、一般的には大企業より小企業、先進国より後進国の方が準備は遅れている。

【日本の準備】

新聞で見る限り、日本では2000年問題はあまり取り上げられていないようだ。首相官邸や電力会社のウェブページにはそれなりの情報が載せてあるが、きれいごとに過ぎ、大本営発表のようだと思うのは私だけだろうか。特に危機管理計画の準備の点で遅れているように見えるが、先日日本の外交官と短時間話をする機会があったが、カナダの軍や警察の危機管理計画に対応する日本の準備はされてないであろうと言うことであった。

【備えあれば憂いなし】

我々庶民にとって、2000年問題が台風、あるいは地震といった自然災害と似たような災害であるのなら、「備えあれば憂いなし」という、祖先からの知恵が生きてくる。もちろんお上はそれなりに対策を立て、準備をしているであろうが、対策の盲点をつかれて問題が発生すれば、痛い思いをするのは我々だ。自分でも出来るだけの準備はしておいた方が良いだろう。

具体的には、1ヶ月ほど供給なしで自炊できるだけのキャンプの準備をお勧めする。ポータブルの水、食料、調理と暖房の火源など、現代生活基盤が崩壊しても、独自にしばらくの間生活できる準備が出来ていることが望ましい。この準備は地震対策にもなるので、2000年問題に限らず、災害対策用として永続的に準備しておけば良い。そして夏にはキャンプに行けば良いのだから、一石三鳥だ。

第2部に続く

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by Kazuo Shiroki
kshiroki@gaia21.net

Created on 1999/01/26
Last revised on 1999/05/16

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