始めまして、バンクーバー在住の白木(しろき)和雄と申します。よろしくお付き合いのほどお願いいたします。私は今インターネット関連のビジネスをしておりますが、これは題名にもありますように、インターネットが我々の将来にとって素晴らしい道具になるだろうと確信しているからです。
【消費者が欲するニュースという商品を売る新聞】
私は多くの日本人と同じく、中学生の頃から新聞を読み始め、以来テレビを見ることも加わり、マスメディアによって世の中で何が起きているか知ることが日課になっておりました。我々はマスメディアが大方は公平で、偏りのない報道をしてくれているものと信じています。また以前はマスメディア以外に、広範に何が起きているかを知るための情報源は存在しませんでした。好むと好まざると、我々には選択の余地はなかったわけです。
ちょっと古い話になりますが、私は地元のバンクーバーサン(Vancouver Sun)を読んでいて、新聞というのは、読者の欲するニュースという商品を売っているのだな、と痛感したことがあります。マスコミ一般がそうでしょうが、特に活字離れの影響を被り、じり貧気味の新聞ではそれがはなはだしいかも知れません。
私がカナダに来たのは1982年でしたが、そのころは、景気が悪い上に、日本車のシェアが急上昇して、日本(車)叩きが露骨だった時期です。フランスなどでもありましたが、カナダでも、カナダの形式認証を得ている日本車を、港で1台1台検査して、陸揚げを遅らせる、などの「非関税障壁」を作るなどの嫌がらせをしていました。それは、日本が外車の輸入時に検査と改造を強いて、値段を上げさせ、配送を遅らせていることへの仕返し、ということでした。
毎日のように、如何に日本がアンフェアなやり方をして、輸入を制限し、輸出を伸ばしているか、というような記事が新聞に載っていました。そして、ついには日本の車の会社の匿名の重役の話として、カナダが日本車の陸揚げを遅らせているのは、日本がしていることと同じだ、というような記事まででました。
私はかって学生時代は自動車部に居りましたから、車には結構知識があります。それでついにたまりかねて、バンクーバーサンに投書をしました。日本に輸入される外車の多くが、日本の形式認定を取得していないので、検査をして日本での法律に合うように改造をする必要があること、(例えば、その頃の日本ではドアミラーが認められていませんでした。)逆にカナダに輸入されている日本車は、カナダの形式認定を取得していて、日本国内で売られている車とは、ハンドルが反対側に付いているほか、バンパーなどが違うことなどを指摘しました。
バンクーバーサンはどうしたと思いますか?私の投書を黙殺しました。考えてみれば、私の投書を公開すれば、日本の重役の談話が捏造だったことを認めることになるわけですから、当たり前ですね。しかし、日本車のシェアが上昇した、ということは消費者全般が日本車を支持したということですから、しばらくして、そのような日本車叩きは影を潜めました。それでその時、新聞とは、読者という消費者が欲するニュースという商品を売っているのだな、と思ったのです。
【風見鶏としての新聞】
そのような観点でバンクーバーサンを読んでいると、面白いことに気が付きます。例えば、BC州の主要産業に林業があります。カナダは伐採の後の植林率が低く、私が来た頃は30%くらい、今でも多分70%に満たないと思います。そうなると、木を切って景気と雇用を守るか、環境を保護して、経済の悪化を取るかの選択を迫られますが、この議論が始めに沸きあがった時、バンクーバーサンは旗色を明らかにしませんでした。過半数の人が景気よりも環境を重視することが明らかになって、初めて「環境組」に肩入れした記事が沢山現れました。ビジネスとして新聞の経営を成り立たせるためには、新聞は常に「勝ち組」に肩入れする必要があります。中日が勝つと中日スポーツが良く売れる、新聞が良く売れれば広告収入も増す、ということですね。
バンクーバーサンは、ニュースの元としてよりも、読者層が何を思っているかを知るためには、とても役に立ちます。人種差別の問題、先住民の土地の所有権の問題、ケベックの独立運動なども、個々の記事ではなく、それらが寄せ集まって醸し出す、新聞全体の風潮がバンクーバー、ひいてはブリティッシュ コロンビア州の気分を端的に現わしているのではないか、と思います。私は「この問題はちょっと危ないな」とか、「これならまだ大丈夫」と判断の材料にするのです。この点テレビは、番組が個々に突出しますから、全体としての流れは掴みにくいかと思います。
また新聞はニューズ(news)ではなく、オールズ(olds)しか伝えない、ということが良くあります。例えば、マーガリンがとても体に良くない、ということは、マスメディア以外では何年も前から言われていて、知る人ぞ知るだったのですが、新聞が大きく取り上げるようになったのは、巷のオピニオンリーダー達の口コミによって、ある程度下地が出来てからでした。本来なら、読者の利益のためには真っ先に報道すべきですが、危ない橋は渡りたくないですから、尻馬に乗ってくるのでしょう。
【広告主の顔色を窺う新聞】
マスメディアのもう一つの問題は、広告主の影響です。例えば、シャボン玉石鹸という会社が日本にありますが、合成洗剤ではない、環境への影響の少ない、また肌に優しい自然の石鹸を作っているところですが、合成石鹸が如何に環境にも肌にも悪いか、意見広告を出そうとしたところ、どの新聞社も受け入れてくれなかったそうです。
その間、大手洗剤メーカーは、環境省を動かし、無リン洗剤なら安全、という神話を作り出し、競って新製品をだしました。無リン洗剤なら安心と信じ込んだ消費者は、石鹸への興味を無くし、シャボン玉石鹸は窮地に追い込まれました。マスコミが広告も乗せてくれないのなら、とシャボン玉石鹸の社長自らが本を書いてから、本の内容がだんだんと消費者に広がり、石鹸がようやく又見直されるようになったそうです。(注1)
【インターネットは革命的な道具】
そうした状況に、彗星のように現れたのがインターネットです。ご存知かと思いますが、インターネットは、アメリカの各研究所や大学に分散する中枢機能が、核戦争の際に壊滅することを防ぐために、国防省の予算で建設された、災害時用のコンピューターの汎用ネットワークでした。したがって、普段は特定の目的のために使われることもなく、研究者達が趣味でインターネット用のプログラムを作り、無料で配布し、情報交換をして遊ぶのに利用されていました。このインターネットの揺籃期の性格が現在も色濃く残っていて、無料で手に入るものが沢山あるとか、知らない人同士助け合うとか、プログラムなどコピーしあうなど、現在の経済システムを乗り越えた、未来の社会システムが育つ可能性さえもあり得るように思えます。
さて、インターネットの他の特質は、ご存知のように世界のどこからでも情報を得、また発信することが出来ることです。ほんのちょっと前までは、権力とお金がなければ出来なかったことが、家庭用のコンピューターと、ワープロを使う程度の知識で出来るようになったのです。既製権力の道具であるマスコミが如何に脅威を感じたか、想像に難くありません。マスコミが最初、インターネットは危険だ、中はいかがわしい内容だらけで、個人情報を盗み取られるぞ、と読者を脅えさせ、インターネットに近寄らせまいとした理由がよく分かりますね。
インターネットの持つ革命的な将来性にアメリカ政府が気づいた時は既に遅く、インターネットは文字どおり、世界の人々のものになっていました。現在インターネットは特定の国、特定の企業にコントロールされておらず、むしろ各国の無名の研究者たちなどの合意によって方針が決定されています。
もちろん、インターネットを既製のマスメディアに組み込もうという試みもなされました。ここ1年ほどキャッチフレーズであった「プッシュ」というのがその例です。これは大手の情報提供業者(マスメディア)がインターネットを使って、視聴者にニュースなどを自動的に配信する、というものです。しかし、インターネットのユーザーの多くは、選択の自由を捨て、インターネットとコンピューターを、単なる受け身のテレビにすることを潔しとはしませんでした。
【世界の中できらりと光る情報】
インターネットの最大の利点は、だれでも情報を世界に発信できる、ということです。正確には、ウェブページと呼ばれるインターネットで読める電子書類を公開しておき、世界の人が見ようと思えば見られるようにしておくことが出来ます。ウェブページを作るのも、文章に写真をちりばめる程度でしたら、ワープロで同程度の印刷物を作るのと同じ程度の易しさです。大企業のウェブサイトは、専門のデザイナーが高度な技術を駆使して作る、凝ったものですが、本物の情報というものは、パッケージのデザインにかかわらず、世界の中でもきらりと光ります。
自画自賛になりますが、イーエム(有功微生物群)という、琉球大学の比嘉照夫教授によって開発された、有機農業や環境保全に使われる、素晴らしいバイオ技術のことを、2年半ほど前に、ごく簡単な英語のウェブページで紹介しました。多分、日本語、英語を合わせ、世界でも初めてのことだったと思います。それからは毎週のように世界のあちこちから問い合わせのメールが来ました。
私はインターネットで何万件のアクセスがあった、とかいうことは余り価値がない、と思います。そのようなことはマスコミがすれば良いことであって、インターネットの神髄は、ほんの小人数でもよいから、世界のあちこちで、必要な人が必要な情報を選られることではないか、と考えます。その点私の粗末なイーエムのページは立派に役を果たしてくれました。
イーエムのページはそのまま2年ほどほったらかしにしておいたのですが、最近調べてみて驚いたことに、累積のアクセス数がなんと6百万ほどになっていたのです。カウンターが誤動作した可能性もありますが、未だに英語でのイーエムのページが他にない状況では、ありえないことではないな、とも思います。もし、このカウンターが正しければ、ことイーエムに関しては、私が世界のマスコミになってしまったのです。(注2)
【ガイア21: 21世紀のモデル構築の試み】
インターネットは、輝かしい21世紀を作り得る、革命的な道具です。もしまだ皆様の中で、この素晴らしい道具を使いこなしてない方は、是非使いこなして下さい。皆様のお考え、皆様の知識や技術を世界の人々と共有しましょう。そして素晴らしい21世紀を築き上げましょう。
先進国と発展途上国の両方の、21世紀に向けてのモデルになるようなコミュニティを作ろうという、ガイア21というウェブサイトを、私は今日公開しました。お時間がありましたら是非訪れてみて下さい。URL(インターネットのアドレス)は http://www.gaia21.net です。
1998年8月18日
白木和雄 バンクーバーにて
この文は、南極探検、タロ、ジロの育ての親として有名な菊池徹さんの主催するオーロラ会(http://www.auk.org/)の会報に掲載されたものを、多少手直ししています。
注1: 現在では大手新聞社の態度も大分変わり、シャボン玉石鹸は全面の意見広告時々出しています。(1998年11月)
注2: EM: Effective Microorganisms (http://www.geocities.com/RainForest/1531/) これは私がまだインターネットのビジネスを始める前に、当時8歳の娘の名前と、娘が学校でもらったメールアドレスを使ってアメリカのジオシティーズで作ったページです。 残念ながら、関係団体などの協力が得られず、むしろ間違った情報を流していると誹謗されたため、作りかけで放置したままになっています。現在ではEMのサイトは日本語はもとより英語のものも幾つかあります。(1998年11月)
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by Kazuo Shiroki |
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